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名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和57年(ワ)101号 判決 1984年11月13日

原告・反訴被告 小川昭造

被告・反訴原告 国

代理人 荻野志貴雄 鈴木孝雄 ほか四名

被告 豊橋市

主文

一  本訴原告小川昭造の本訴被告国及び本訴被告豊橋市に対する請求をいずれも棄却する。

二  反訴被告小川昭造は反訴原告国に対し、別紙物件目録記載の各土地について、真正なる登記名義回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三  訴訟費用は本訴及び反訴を通じて、全部本訴原告(反訴被告)小川昭造の負担とする。

事実

(当事者が求めた裁判)

一  本訴原告

本訴原告と本訴被告らとの間において、別紙物件目録記録の各土地が本訴原告の所有であることを確認する。

訴訟費用は本訴被告らの負担とする。

仮執行宣言。

二  本訴被告ら

主文一、三項同旨

三  反訴原告

主文二、三項同旨。

四  反訴被告

反訴原告の請求を棄却する。

訴訟費用は反訴原告の負担とする。

(当事者が主張した事実)

第一本訴請求原因

一  別紙物件目録記載の各土地(以下、本件土地という)は、もと小川くらの所有であつた。

二  本件土地所有権は、小川くらの相続人小川昇一が相続承継し、同人から本訴原告が相続によつて取得した。

三  本訴被告豊橋市は、本件土地が本訴被告国の所有であるとして、本訴原告の所有を争い、本訴被告国は、本訴被告豊橋市の右行為を放置して、本訴原告の所有であることを争つている。

第二本訴請求原因に対する認否

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実中、相続関係は不知、本訴原告が所有権を取得したことは否認。

三  本訴被告らが、本件土地所有権を本訴被告国が有していると主張していることは認める。本訴被告らの主張は、反訴請求原因記載のとおり。

第三反訴請求原因

一  本件土地は、もと小川くらの所有であつた。

二  反訴原告は、売買、寄付などの原因を含めた移転原因のいずれかにより、小川くらから大正九年九月三〇日に本件土地の所有権を取得した。

このことは、右所有権の取得に伴い、同年一〇月一日に所轄税務署長が所管庁から、本件土地が有租地から無租地になつた旨の通知を受け、これに基づいて同日、本件土地の土地台帳の沿革欄に「大正九年九月三十日官地成同年十月一日通知ヲ受ケ同年同日処理」と記載し、登録事項のすべてを朱線で抹消し、無租地となつた旨の処理をしたことによつて示されている。

三  小川くらは昭和三年九月一日に死亡したが、反訴被告は本件土地につき、名古屋法務局豊橋支局昭和五八年一月八日受付第五四一号をもつて、登記原因を昭和三年九月一日小川昇一遺産相続、昭和二三年六月八日相続、所有者を反訴被告とする所有権移転登記をした。

四  右のとおり、本件土地の所有者は反訴原告であるのに、反訴被告は登記簿上所有名義を有して、反訴原告の本件土地所有権の完全な行使を妨害しているので、本件土地所有権に基づき、真正名義回復のための所有権移転登記手続を求める。

第四反訴請求原因に対する認否

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実中、本件土地の土地台帳の沿革欄に、反訴原告主張の記載がなされていることは認め、その余の事実は否認。

本件土地は、反訴原告に寄付されたことも、買収されたこともなく、道路敷予定として旧高師村からの通知により、非課税地扱いとなつたに過ぎない。

三  請求原因第三項の事実は認める。

四  同第四項は争う。

五  仮に、反訴請求原因が全て真実であるとしても、真正名義回復を原因とする所有権移転登記請求は認められない。すなわち、真正名義回復を原因とする所有権移転登記請求は、名義借のように貸主たる所有名義人の登記を抹消しても、借主たる真の所有者の登記が顕出しない場合とか、本来抹消登記をなすべき詐欺取消や虚偽表示無効を理由とする場合にもかかわらず、保護さるべき利害を有する第三者が存在するため、不動産登記法上抹消登記の許されない場合にのみ認められるものであるところ、本件についてはそのような事情は存在しない。

(証拠関係)<略>

理由

一  本件土地が、もと小川くらの所有であつたこと、同人が昭和三年九月一日に死亡したこと、本件土地につき、名古屋法務局豊橋支局昭和五八年一月八日受付第五四一号をもつて、登記原因を昭和三年九月一日小川昇一遺産相続、昭和二三年六月八日相続、所有者を本訴原告(反訴被告、以下、原告という。)とする所有権移転登記手続がなされていること、並びに、本件土地の土地台帳の沿革欄に「大正九年九月三十日官地成同年十月一日通知ヲ受ケ同年同日処理」の記載がなされていること、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  本件土地所有権の帰属について検討する。

<証拠略>によれば次の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

1  本件土地の旧土地台帳の各沿革欄には「大正九年九月三十日官地成同年十月一日通知ヲ受ケ同年同日処理」の記載があつて、この土地台帳の登録事項が抹消されているところ、当時の地租法についての関係官署の事務取扱において「官地成」とは、民有地が官有すなわち国有に帰したものを指称した。そして、「官地成」した土地については、官庁の通知又は登記済通知書が所轄税務署に到達したときを除租の分界となすべき時期として、土地台帳の登録事項が朱書抹消された。

また、私有地がその所有権の帰属をかえないままで公用又は公共の用に供されたために、地租を課さない土地となつたときには、これを「免租地成」とする取扱いで「官地成」とは区別された。

2  本件土地の従前の地目は畑及び田であつたところ、大正一二年五月一二日、愛知県渥美郡高師村によつて、二川福岡線の道路敷地に認定され、その頃以来、本件土地は道路敷地として使用されて来た。

本件土地の元所有者小川くらは、本件土地に近接して、山田町字西山二一番四 田(現在は宅地一四五・二二平方メートル)及び同所二二番三 田(現在は宅地一六二・三三平方メートル)を所有していた。

小川くらが昭和三年九月一日に死亡したのち、同女の二男小川昇一は右二筆の土地について、これを相続したものとして自己の名で、同年一一月七日に所有権保存登記をしたが、これに近接する本件土地についてはそのような手続を試みたこともなく、また、小川昇一の相続人である原告が小川昇一から、本件土地の所有権が小川昇一に帰属しているものと主張していることを聞知したこともない。

三  右認定の事実によれば、本件土地台帳に本件土地が大正九年九月三〇日に国有に帰した旨の記載がなされ、従前の所有者であつた小川くらは、本件土地の状況か大正一二年ころ田から道路に変化したのに、本件土地の所有権の帰属や土地使用について何らかの異議をさしはさんだ形跡はなく、又、その相続人として近接所有土地について、小川くらの死亡を機会にその保存登記をした小川昇一も、本件土地の所有権の帰属について関心を示した形跡がないのであるから、本件土地は、大正九年九月三〇日に国有に帰したものと認められる。

「官地成」の記載は、土地の所有権が国に帰属した状態を示すものでありこそすれ、所有権移転原因を示すものではないから、国の所有に帰した原因が買収や売買か寄付あるいは交換など他の原因であるのかを知ることはできない。

土地の所有権は、実体法上、その移転原因たる事実の存在によつてその帰属を変え、その事実が存在しなければ帰属を変えることはないから、所有権移転原因たる事実の立証は、所有権帰属の効果的立証方法であるには違いないけれども、訴訟における証明主題は現在における所有権の帰属であるから、訴訟法の観点からすれば、所有権移転原因である事実の証明によらずして、所有権の帰属を立証することが可能である場合にはこれを拒まねばならぬ理由はない。

四  以上のとおり、本件土地所有権は、大正九年九月三〇日に本訴被告国の所有に帰したものであるから、小川くらの相続人である小川昇一を経由して、その相続人である本訴原告が本件土地所有権を取得しうるものではなく、本訴原告が本件土地所有権を有することを前提として、本訴被告国及び本訴被告豊橋市に対して、所有権を有することの確認を求める本訴請求は理由がない。

反訴請求についてみるに、真正名義回復を原因とする所有権移転請求の可否について、反訴被告は前記反訴請求原因に対する認否の第五項のように主張しているが、反訴被告主張のようにこの請求権の範囲を制限すべきものとする見解は、登記実務上採用されていないし、真正名義回復の登記請求権の発生原因は、権利の実体関係と登記の不一致であるから、反訴原告に本件土地の所有権が帰属し、反訴被告が本件土地について所有者としての登記名義を有しているいま、反訴原告の反訴被告に対する真正名義回復を原因とする所有権移転登記請求は理由があるものとして認容すべきである。

よつて、本訴請求を棄却して、反訴請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用する。

(裁判官 田中昌弘)

物件目録 <略>

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